★ ドライマウスのまとめ
2023年10月3日
●唾液は、う蝕に対する最大の防御因子。唾液の減少はう蝕リスクが極度に高いと評価、有病率は65歳以上で30%以上。
●カリエスコントロールには、夜、歯を磨いた後に飲食を控えることが重要。
●唾液の減少は自覚しづらい。安静時唾液0.16ml/分低下、刺激時唾液が1.0ml/分未満でリスク
●噛んで食べるものは、刺激時唾液が分泌され、脱灰が抑制される。噛まずに摂取できる、糖を含んだ飲食物(飲み物やあめなど)は刺激時唾液が出にくいのでう蝕になりやすい。
●ドライマウスの原因でもっとも多いのは、薬剤の副作用。
●口が乾いたときになめるあめに注意。う蝕原性の糖や酸の入っていないあめやガムにする
●ドライマウスの患者さんのカリエスコントロールには、食後すぐの歯磨きやフッ化物のプラスケア(洗口剤、フォーム)が有効
★口が乾いてもあめをなめないで!
2023年9月30日
ドライマウスになると、あめをなめる方が多く見受けられます。あめをなめて少しでも唾液を出し、亜口の中を快適にしたくなるからです。
しかし、ドライマウスの方があめを頻繁になめると、歯面は脱灰が続き、ものすごいスピードで歯を失っていきます。その理由には、
➀口の中の糖が唾液で洗い流されず、唾液中の糖の濃度が高いままになること
②バイオフィルム中で細菌が糖から産生した酸が中和されないままになるため です。
ドライマウスの方には、糖アルコール(キシリトール、マルチトール、ソルビトールなど)を使用したあめやタブレット、ガム(酸や果汁パウダーの含まれていないもの)が効果的です。
糖アルコールは、バイオフィルム中のpHの低下がほとんど起こらない上、甘みによる味覚刺激により、さらに刺激的唾液が出やすくなります。唾液が出れば、口の中が潤うだけでなく、歯面の再石灰化も進みます。ドライマウスはう蝕にとって極度のリスクです。患者さんがお口の乾燥を気にしていたら、「普段あめをなめていますか?」と確認してみてください。
★ ドライマウスは何が原因で起こるの?
2023年9月29日
年齢とともに唾液量が減少する患者さんは多くなりますが、15歳以上の健常者において、加齢のみが唾液量減少の原因となっているケースはほとんどないことが報告されています。
では、ドライマウスは何が原因で起こるのでしょうか?ドライマウスの原因は多様で、体内の水分量、薬剤の副作用、全身疾患(シェーグレン症候群、間接リウマチ、アルツハイマー病、パーキンソン病、糖尿病など)、放射線療法、口腔疾患などがあげられます。
中でも、最も多いのは薬剤の副作用です。高血圧の薬や向精神薬がその筆頭ですが、一般的処方薬80.5%が唾液の減少の原因になるとされています。また、服用する薬剤の種類が多くなるほど、唾液減少の危険は増し、う蝕になるリスクが高まります。歯科医院でも患者さんの全身状態を常に把握し、唾液の減少に即座に対応する必要があります。
★ よく噛んで食べるとう蝕予防になる?
2023年9月27日
よく噛んで食べることは、消化を助けるだけでなく、カリエスコントロールの観点からも大切です。
10%スクロース溶液で洗口した時と、サトウキビを咀嚼した時のプラーク中のpHの変化を計測した研究があります。スクロース溶液で洗口を行うと、プラーク中のpHは臨界pHを下回り、pHの回復にも時間を要しました。
一方、サトウキビの咀嚼ではpHがわずかしか下がらず、すぐに回復しました。これは咀嚼と味覚により、刺激時唾液が増量した結果、浄化作用と緩衝作用が高まったためと考えられます。刺激時唾液が分泌されると、pHが1近く上昇し、重炭酸塩の濃度が高まり脱灰を抑制します。
砂糖の原料であるサトウキビであせ、よく噛んで食べることにより唾液の作用でう蝕原性が低くなることが分かります。
逆に、噛まずに摂取できる、糖を含んだ飲食物は、唾液の作用を期待できないためう蝕になりやすく、注意が必要と言えます。
★ 部位で異なる唾液の効果
2023年9月25日
唾液は主に耳下腺、顎下腺、舌下腺の3つの大唾液腺から分泌されます。唾液が出るのは、耳下腺が上顎大臼歯相当部の頬側粘膜から、顎下腺と舌下腺は舌の下からです。安静時は顎下腺、刺激時には耳下腺からの分泌割合が増加します。
口腔内が流れたりたまったりする部位は、唾液の作用によりう蝕になりにくく、そうでない部位はう蝕のリスクが高くなります。
安静時と刺激時(甘いガムを20分咀嚼)で、部位ごとにスクロース溶液の濃度が半分に薄まる時間を調べた研究では、上顎前歯部唇側と下顎臼歯部頬側において他の部位よに2~7倍長い時間を要しました。特に、安静時はかなり長い時間がかかりました。(上顎前歯部唇側では個人差大)
また、レモン味の雨をなめて同様の実験を行うと、下顎前歯部では甘いガムを咀嚼した時とほぼ差がなかったものの、上顎前歯部では42分かかりました。唾液の流れに加え、噛む・なめる・飲むなどの動作によっても糖の残留度合いが異なると言えます。上顎前歯部は刺激時唾液が届きにくく糖が残りやすいため、飲み物でう蝕が起こりやすい部分です。
★唾液分泌の日内変動
2023年9月22日
唾液には、刺激が無くても自然に流れ出る安静時唾液と、味覚や咀嚼などの刺激により多量に分泌される刺激時唾液があり、1日の合計分泌量は500~1500mlと報告されています。
唾液が無くても自然に分泌される安静時唾液は、1分間あたり約0.3mlと分泌量は少ないのですが、1日の中で長時間分泌されているため、う蝕予防に重要な役割を果たしています。分泌量は、薬剤や全身疾患以外にも体内の水分量、環境の明暗、体位、概日リズムなどの影響を受けます。
安静時唾液の分泌量を、7時、11時、14時、17時、22時と時間を決めて数日間図り続けたところ(食事の際にはその前に計測)、1日の中では夕v方に最大、起床時に最小と一定のリズムを示すことが分かりました。夜から朝にかけて唾液分泌量は低下し、就寝時には著明に少なくなるため、唾液の作用が弱まり最もう蝕になりやすいと考えられます。
そのため、カリエスコントロールには、夜、歯を磨いた後に飲食を控えることが重要です。
★唾液が減ると、なぜう蝕になるの?
2023年9月20日
唾液の量が減少すると、なぜう蝕が進行しやすくなるのでしょうか?
健康の成人を被験者にして、スクロース溶液で30秒間、口をゆすいだ後に、唾液中のスクロース濃度とバイオフィルム中のpHを計測した研究があります。
唾液分泌が少ない人は多い人に比べ、スクロース溶液で口をゆすいでから10分後に唾液中のスクロース濃度が10倍も高く、濃度が低くなるまでに時間がかかりました。バイオフィルム中のpHは下がり方が大きいうえに回復が遅く、30分後でも臨界pHの5.5までしか戻りませんでした。
唾液量が少ないと、
緩衝作用→バイオフィルム中のpHが低い状態が続く
浄化作用の低下→唾液中のスクロース溶液の濃度が高い状態が続くことにより、脱灰が再石灰化を上回り、う蝕が進行しやすくなります。
★ 唾液の働き
2023年9月19日
唾液はう蝕に対する最大の防御因子で、分泌が減少すると、う蝕や酸蝕が非常に速く進行します。
そのため、唾液が減少している方はう蝕リスクが極度に高いと評価します。
ドライマウス(口腔乾燥症)の有病率は年齢とともに増加し、65歳以上では30%以上とも推定されています。
唾液のう蝕予防における作用はいくつもありますが、その中の主なものを3つ挙げます。
➀イオン貯蔵作用
唾液は歯のミネラル分(リン酸塩やカルシウム)が豊富に貯えられているまえ、再石灰化を促します。
②緩衝作用
酸を中和することにより、唾液やバイオフィルムのpHを7(中性)付近まで戻します。(pH6~7.5ではリン酸塩、pH<6で重炭酸塩が主に働きます)それにより、脱灰の時間を短縮します。
③浄化作用
飲食物や細菌を口腔内から洗い流します。
★ 酸蝕症の患者さんへの指導事項
2023年9月15日
歯を溶かす酸には、細菌が糖から作り出す酸と、食べ物や飲み物に含まれる酸があります。細菌が作る酸より強い酸性を示す食べ物は意外と多く、日常的に摂っていると歯が溶けていくので注意が必要です。また、酸性の飲食物を頻繁に摂ると、糖を摂取した際に細菌から強い酸が出やすくなります。歯を守るには、原因の改善が最重要です。日常生活の中で、以下のことに気を付けてください。
➀印書について
・食事以外で酸性の飲食物を日常的に摂取するのは控えましょう。(成分表示に酸味料、柑橘系果汁、●●酸、クエン酸などと記載されているのものに注意)
・酸性の飲料を飲む際には、歯に当てないようにストローを使いましょう。
・水、コーヒー、牛乳、炭酸水、お茶(酸性のハーブティーを除く)は、砂糖が入っていなければ歯が溶けることはありません。
②歯磨きについて
酸性のものを飲食する直前に歯磨きをしないようにしましょう。(歯を酸蝕から保護するタンパク質の膜が取れてしまうため)
・酸性の者を飲食した直後の歯磨きも避けましょう(より歯が削れやすい)
・やわらかい歯ブラシと研磨力の低い高濃度フッ化物配合歯磨剤を使いましょう。フッ化物を含まない酸性の歯磨剤や洗口剤は避けましょう)
③酸性のものを飲食した後に行うこと
・重曹溶液やフッ化物配合洗口剤で洗口しましょう。あるいは、チーズ、無糖ヨーグルト、牛乳など乳製品を摂ると良いでしょう
・酸の含まれていないノンシュガーのガムやあめで、唾液の流れを刺激しましょう(歯の状態によっては、ガムを噛むと歯が削れることもあります。)
・どれも難しい場合には、水で口をゆすいでください。
④その他
・定期的に歯科医院で高濃度フッ化物の塗布を受けてください。
・原因によっては医療機関で適切な治療を受けましょう。(胃腸科、心療内科など)
★ 複合う蝕
2023年9月13日
スポーツドリンクやフルーツジュースなど、酸と糖の両方が含まれる飲食物をたびたび摂取すると、酸蝕症だけでなくう蝕のリスクも高まります。
酸と糖の両方が関わる病態を複合う蝕と呼び、より注意が必要と考えています。複合う蝕の一番の特徴は、プラークの付着が少ない割に進行が速いということです。歯質の切削時には、X線像から想定されるよりも深くまでう蝕が進んでいることが多いと感じます。酸の影響を強く受けるので、通常のう蝕とは異なる部位にも見られます。
う蝕の進行が速い理由は、2つ考えられます。
1つは、飲食物などの酸によってバイオフィルム内が酸性環境となることで、う蝕を進行させる細菌の割合が増加(マイクロバイアルシフト)したところに糖が加わるため。
2つめは、最近の産生する酸だけではく、飲食物に含まれる酸でも脱灰が進むため、さらに、象牙質う蝕が進行する過程において、コラーゲンの分解よりもハイドロキシアパタイトの脱灰の方が著しく進行することにより、コラーゲンが分解されることで働く歯髄応答が少ないことも考えられます。
複合う蝕の対応で最も需要なのは、原因の改善-すなわち酸と糖の両方を含む飲食物の摂取を制限することです。植生かとの問診を注意深く行ってもらって、患者さんの口腔内の状況と関連付けて説明を行います。日常的に摂取してるものを変更する、あるいはたまにとる程度に控えて頂くだけで、問題が解決することも稀ではありません。