★ フッ化物について
2023年6月30日
フッ素は反応性の高い元素で、自然界では基本的に単体で存在することはなく、他の元素と融合してフッ化物として存在します。私たちが日常で摂取している飲食物(お茶、海藻、魚や野菜など)にも、フッ化物は多く含まれています。
世界中でう蝕のコントロールに多大な貢献をしているフッ化物ですが、歯科の歴史においては、歯のフッ素症(斑状歯)の原因として登場しました。山の岩石にはフッ化物が多く含まれ、それが溶け出た川の水を飲んでいた子供たちの萌出歯に、褐色の斑点が見つかったのです。しかし、その子供たちを調べてみると、う蝕の発生が少ないことが分かりました。
そのため、しばらくはフッ化物を体内に摂取することがカリエスコントロールにつながると考えられ、塩、小麦粉、錠剤や水道水などでのフッ化物摂取が推奨されました。現在は、フッ化物を配合した歯磨剤などを使用することにより、常にフッ化物が口腔内に存在することがカリエスコントロールに重要であり、体内に摂取する必要はないことが明らかになっています。
それどころか、体内で永久歯が形成される幼児期にフッ化物を過剰摂取すると歯のフッ素を引き起こし、歯の結晶がもろくなってしまいます。またフッ化物は塩と同様、過剰摂取すると急性中毒を起こしますので、注意が必要です。
フッ化物は、➀再石灰化の促進 ②脱灰の抑制 ③結晶性の改善 ④細菌の代謝阻害によりう蝕を予防するします。過剰フッ化物摂取による弊害をなくし、フッ化物に対する正しい知識を得て、カリエスコントロールに有効活用しましょう。
★ いつ歯を磨けばいいの?
2023年6月27日
歯磨きは、1日の中でいつ行うのが効果的なのでしょうか?さまざまな視点から、エビデンスを基に考えてみましょう。
〇バイオフィルム
バイオフィルムが成熟するまでに数日かかるため、1日の中で一回はていねいに歯を磨いて、しっかりプラークを除去することが大切です。
〇フッ化物
フッ化物が流されてしまうので、飲食前の歯磨きは控えましょう。また、就寝前にフッ化物配合歯磨剤で歯を磨き、就寝中の歯面にフッ化物を残留させると良いでしょう。
〇生活習慣
新しい習慣は他の行動と関連付けると定着しやすくなります。歯磨きを食事の後にする、お風呂のときにするなど、毎日行うことに関連付けて習慣化すると良いでしょう。
〇酸蝕症
飲食物の酸で歯がダメージを受けていると、歯磨きでも歯面が削れてしまいます。
飲食後、30分以上たってから磨くと、少しは抑えられます。
〇ドライマウス
リスクが極度に高いので、バイオフィルム中のpHを早く中性に戻すため、食べた直後に歯を磨くようにしましょう。唾液量が少ない ので、糖を洗い出す作用も、酸を中和する緩衝能も引くと考えられます。
◎バイオフィルムのまとめ
・バイオフィルムは、う蝕の直接的な原因
・ブラッシングとフッ化物の応用で、う蝕の進行を止めることができる
・萌出したばかりの乳歯と永久歯、露出したての歯根面はう蝕のリスクが高い
・エナメル質の臨界pHは5.5、象牙質、乳歯、幼若永久歯の臨界pHは6
・歯面にバイオフィルムが付いていなければ、糖を摂取してもう蝕による脱灰はおこりにくい
・プラークが二日を超えて成熟し続けると、糖接種時のpH低下が大きく、脱灰時間も長くなる。
・1日2回以上歯磨きする人は、2回未満の人よりう蝕が少ない
・電動歯ブラシは手用歯ブラシよりプラーク減少に効果的。
ただし、患者さんの状況によって使い分けが必要
・フロスのう蝕予防効果についてはエビデンスが不十分
・清掃指導だけではう蝕はコントロールできない。自己診断をさせたり、う蝕の原因や砂糖の話をするなど、患者が歯を磨きたくなるような働きがけが効果的。
★ う蝕予防に効果的な口腔衛生指導とは?
2023年6月26日
患者さんに行うOHI(口腔衛生指導)は、どれだけ新しいう蝕の発生を防ぐ効果があるのでしょうか?
フッ化物配合歯磨剤を使った歯磨き習慣を持つ12~13歳の児童を3つのグループに分けて、う蝕予防効果を調べた研究があります。
〇グループ1 詳細なOHI+初期う蝕。歯肉炎の自己判断、病因や砂糖などの話25分
〇グループ2 詳細なOHI(歯ブラシ、デンタルテープ、フッ化物配合歯磨剤を使った歯面政争の指導)
〇グループ3 指導無
3年後、グループ1はグループ2に比べ、新しい隣接面う蝕の発生が半数にとどまりました。また、OHIのみのグループ2は、何も指導されなかったグループ3と、新しいう蝕の発生数がほとんど同じでした。
この結果から、「磨き方」よりも「磨きたくなること」すなわち行動変容をもたらすような働きがけが、う蝕の減少に効果があると言えるでしょう。患者さん一人一人の口腔内の状況、知識、生活に合わせた指導が、患者さん自身の健康意識を高めてくれるのです。
カリエスブック
著 伊藤直人
★ フロスでう蝕は予防できる?
2023年6月24日
ブラッシングはう蝕のコントロールに効果がありますが、フロスも効果があるのでしょうか?
隣接面にプラークがついていない場合にはpHは低下しないという実験結果があり、フロスでプラークを除去することができれば、隣接面う蝕は予防できると考えられます。
システマティックレビューでは、口腔衛生が悪くフッ化物を使用していない子供に毎日、専門家がフロスをすると、う蝕リスクが約40%低下したと報告されています。
しかし、子供や思春期の若者が自身で行うフロスには効果が認められず、効果的なフロスには技術が必要ということが分かります。また、成人ではう蝕予防効果のエビデンスが不十分です。
フロスで確実なう蝕のコントロールができるとは言い切れないものの、歯肉炎や歯周病の予防、露出した歯根面のう蝕のコントロールにはフロスや歯間ブラシは不可欠です。
カリエスブック
著 伊藤直人
★ 手用歯ブラシVS電動歯ブラシ
2023年6月23日
バイオフィルムの除去には、ブラシの毛先が物理的に当たることが大切ですが、毛束の量や形状、動きにより毛先の当たりやすさは異なります。手用歯ブラシと電動歯ブラシでは、どちらのほうがプラークを除去できるのでしょうか。
システマティックレビューでは、電動歯ブラシは手用歯ブラシよりも、統計学的に有意にプラークを減少させる効果があると結論付けられています。
特に、回転振動式の電動歯ブラシは、短期及び長期の有意差が認められました。
ただし、手用・電動どちらも一長一短ありますので、患者さんのフッ化物の使用や口腔内の状況に応じて使い分けることが必要と思われます。
PCR(plaque control record)がいい方は、どのような歯ブラシを使ってもよいでしょう。
手用歯ブラシでPCRの悪い患者さんは、電動歯ブラシを使ってもらうと大幅にPCRが改善することもあります。
カリエスブック
著 伊藤直人
★ 一日に何回、磨けばいいの?
2023年6月20日
ブラッシングをテーマにした研究では、一日何回、歯を磨くことが推奨されているのでしょか?
1日3回、毎食後に歯を磨くという方も多いと思いますが、研究では、一日に2回磨く場合と3回磨く場合で、う蝕の発生に大きな差は認められていません。というのも、多くの研究においてブラッシングは1日2回で行われており、2回と3回以上を比較した研究は少ないのです。
ただし、それ以下の回数ではう蝕の発生に有意差がみられるため、1日に2回以上歯を磨くよう患者するのが良いでしょう。さらにゆうと、「歯磨きをしている」と「歯磨きができている」は全く別で、歯ブラシが当たっていない部位は、何日も磨いていないのと同じです。「削らない治療」では、患者さん自身に歯ブラシの当たっていないところ知っていただく事も重要です。
★ 露出したては要注意
2023年6月16日
なぜ、萌出したての幼若永久歯や露出したての歯根面にはう蝕ができやすいのでしょうか?そこにはプラークが付着しやすい以外にも原因があります。
口腔内に露出したばかりの歯は、主成分のハイドロキシアバタイトの結晶が小さく、不純物も含まれ脱灰しやすい状態です。萌出後は、唾液中のミネラルイオンにより結晶が大きくなり、脱灰と再石灰化を繰り返して、不純物が除かれたフッ化物を取り込んだりしながら、萌出後成熟をすることで、酸への抵抗性が増します。そのため、20歳を過ぎる頃からは、歯冠部エナメル質に初発のう蝕はほとんどできなくなります。
また、露出したての歯根面の象牙質がよりう蝕になりやすいのは、象牙質はエナメル質よりも結晶が小さく、多くの不純物を含んでいる酸の影響を受けやすいためです。
以下のような、口腔内に露出したての歯には注意しましょう。
〇萌出したばかりの乳歯
〇萌出したばかりの永久歯(幼若永久歯)
〇歯周治療や隣在歯の影響によって露出したての歯面
歯は成熟していくとう蝕のリスクが低くなるので、露出してから3年間は特に注意が必要です。
★ 歯磨きしないと、どうなる?
2023年6月14日
何日も歯を磨かないでいると、どうなるでしょうか?ヒトで行われた貴重な研究を紹介します。
12人の歯科学生に23日間ブラッシングを中止し、うち6名は1日9回、50%スクロース溶液で2分間の洗口を続けました。10,15,23日後に大臼歯以外の頬側歯面を実体顕微鏡で観察すると、全員にう蝕の進行が見られ、スクロース溶液で洗口した6名はより進行していました。
この研究から、バイオフィルムがう蝕の直接的な原因で、糖はう蝕の間接的な原因であることが分かります。
エナメル質に初めてできたう蝕(原発性う蝕)を考えてみましょう。
口の中のpHはおおよそ7.0(中性)ですが、飲食によって糖が口腔内に入り、歯面についたバイオフィルムに取り込まれると、バイオフィルム中の細菌が糖を代謝して酸を出し、pHが低下していきます。
バイオフィルム中のpHが臨界pH(エナメル質pH 5.5,象牙質pH6.0)を下回ると、バイオフィルムと接している歯の表面からカルシウムやリン酸などのミネラルが溶けだします。この現象を脱灰といいます。
一方、唾液によって酸が中和され、バイオフィルム中のpHが臨界pHを上回ると、溶けだしていたカルシウムやリン酸が歯面に戻る再石灰化が起こります。
バイオフィルムと歯面に協会では脱灰と再石灰化が繰り返されていて、脱灰している時間が長くなるとう蝕になります。
バイオフィルムがあるからといって必ずしもう蝕になるわけではありませんが、バイオフィルムなしにう蝕ができることはないのです。
★ どれが悪い状態だと思いますか?
2023年6月13日
カリエスブック
著 伊藤直人
上の4枚の写真の中で、どれが悪い状態だと思いますか?
悪いのは、一番左の歯です。歯根面が軟らかく、活動性(進行性)のう蝕です。この状態を放置しておくと、穴が開いてう窩になってしまいます。
一番左の状態から、フッ化物配合歯磨剤でブラッシングを続けると、右の状態へと変化していきました。一番右は18カ月後の状態で、歯根面は着色していますが硬く滑沢で、非活動性(停止性)のう蝕となっています。歯冠部にも数十円前に非活動性になったう蝕が見られます。
清掃用具が適切に当たり、う蝕の原因であるバイオフィルムが取り除かれると、進行中の活動性のう蝕は非活動性となって停止します。
カリエスブック
著 伊藤直人
★ う蝕の削らない治療とは?
2023年6月9日
う蝕治療の基盤となる「削らない治療」の主体は、患者さんと歯科衛生士です。
削らない治療の柱は2つ
〇患者さん自身がう蝕のコントロールの為にとる行動
〇歯科医院で歯科衛生士が患者さんに行う指導や処置
このうち、患者さん自身が毎日の生活の中で行うう蝕のコントロールは治療の中核となるため、非常に重要です。
歯科衛生士が、患者さんに口腔内の状況やう蝕の原因・リスクを丁寧に説明し、う蝕のコントロールに効果的な行動を日常的にとれるよう手助けすることが成功の鍵となります。従来の削る治療には歯科医師の知識や技術が必要でしたが、削らない治療には歯科医師と歯科衛生士のカリオロジーの知識が不可欠です。
カリオロジーの知識をベースに、筆者が臨床で試行錯誤しながら作り出したう蝕の削らない治療のシステムがNICCS(ニックス)になります。
う蝕の病因が「特定の細菌による感染」から「細菌叢における環境と生体への変化」へとシフトしたのに伴い、う蝕にかかわる因子の根トロルを目的とした「削らない治療」の重要性が増してきました。
削らない治療は患者さんが主体になるため、効果的な患者教育が欠かせません。患者さん個々のリスクを適切に評価し、リスクに応じた行動変容を促す必要があります。しかし、さまざまなう蝕リスク検査を導入しても、患者教育に偏りや漏れが生じてしまい、失敗を数多く経験することがあります。その反省を踏まえ、試行錯誤しながら数多くのカリオロジーのエビデンスを臨床に落とし込み、独自に作り出したう蝕ケアシステムが「NSCCS(ニックス)」です。
NICCSでは、FejerskovとManjiのう蝕に関わる因子の中から、患者さん自身が改善可能な因子をピックアップし、そこに、細菌叢に影響を与え、複合う蝕を引き起こす「酸」を追加しました。そして、患者さんの行動変容を促しやすくするため、う蝕の因子に優先順位をつけ患者さんがとるべき行動を極力シンプルに絞り込みました。
カリエスブック
著 伊藤直人