★静かに進行するサイレント・キラー ➀
2023年2月4日
歯周病は大きく、歯肉内に炎症がとどまっている「歯肉炎」と、その先の組織に病気が進行する「歯周炎」分けられます。どのように進行するかを見ていきましょう。
【➀歯肉炎】
プラークが歯と歯肉のすき間にたまると、歯肉は炎症を起こし、変色し、出血しやすくなります。
時には歯肉がむずがゆかったり、触るとぷよぷよしますが、この段階では異変に気付かない人が多いようです。これは歯周病菌を追い出そうというからだの防御反応の炎症です。同時に健康な時は1~2㎜程度だった歯肉溝(歯と歯肉の間にはもともと1~2ミリのすき間があり、これを歯肉溝という)は歯肉の腫れによって、「歯肉ポケット(仮性ポケット)」と呼ばれる溝(2~3ミリ)になります。この段階であれば自分自身のブラッシング(プラークコントロール)をはじめとしたセルフ・ケアの徹底や、歯科医院でプラークが石灰化して固まった歯石の除去(スケーリング)などのプロフェッショナル・ケアを受ければ、炎症はおさまり、元の健康な歯肉に戻すことができます。
【②歯周炎】
プラークがさらに歯と歯肉の奥に入り込むと、歯肉の炎症が深いところまで達するようになり、歯肉溝は歯肉ポケットから「歯周ポケット(真性ポケット)」といわれる状態に進行します。歯肉の炎症は継続し、出血しやすい状態や腫れは続き、歯もわずかに動くようになります。また、炎症により歯肉の一部が退縮して本来、歯を覆っていた位置から下がり、歯の根元付近が露出してきます。歯と歯の間の歯肉も下がるのですき間が気になるようになります。歯肉の内側では歯を支える歯槽骨が吸収し始め、X線画像で見ると歯槽骨の高さが低くなっているのが分かります。この段階で歯科の治療を受ければ、歯周病は十分に治すことができます。
【③中等度歯周炎】
プラークがさらに根の先の方向に向かって入り込み、炎症はますます広がっていきます。また、歯肉の退縮が進み、歯の根の部分がさらに露出し、歯が長くなったようになる場合もあります。ここまでくると多くの人は歯肉の違和感や歯の動きにはっきりと気づくようになります。また、歯と歯の間の歯肉がさらに下がり、すき間が広がり、そこから息が漏れることによって発音への影響も出始めます。その前の段階にもみられる口の中の粘着きだけではく、口臭などの症状も出てくるために、あわてて歯科医院を受診する人が増えはじめます。
【④重度歯周炎】
歯の周りの組織はさらに破壊され、歯肉は下がり、歯と歯の間のすき間も目立つようになります。歯槽骨はさらに吸収され、X線画像では歯を支える歯槽骨がごくわずかとなります。時には歯肉からは膿や血が持続的に出て、口臭は一層強くなり、歯は大きくぐらつきます。噛む力を支えきれず噛んでも歯の位置が不安定になるので本来の位置から動いて歯並びが悪くなったり、十分に食べ物が噛み切れなかったり、発音に影響が出るようになります。
【最終段階】
歯を支える歯槽骨をはじめとした歯周組織がほとんど失われるため、大切な土台を失った歯は自然に抜けてきます。
続 日本人はこうして歯を失っていく
著 日本歯周病学会・日本臨床歯周病学会
★増殖する歯周病菌 感染は防げるのか? ④
2023年2月3日
歯周病が悪化するかどうかは抵抗力や生活環境の影響も大きいといえます。
実は歯周病は、
➀口の中の細菌の攻撃力
②患者自身の抵抗力
③生活習慣(環境)、その他
これらが絡み合って起こると考えられています。➀の攻撃力については、プラークが多いほど悪化しやすくなります。ブラッシングを怠り、プラークが蓄積されると歯周病菌をはじめとした病原菌が膨大になるからです。
一方、それほどプラークが蓄積していなくても、組織の抵抗力が下がっていると歯周病が悪化しやすくなります。実際、仕事が忙しく睡眠不足が続いたりすると、歯周病が悪化したという経験を持つ人もあると思います。これが②の患者自身の抵抗力、に関する典型的なケースです。
さらに③の生活習慣については、ヘビースモーカーの人は歯周病にかかりやすく、歯周病の治療をしてもなかなか改善が見られないことが分かっています。(喫煙は歯周病のリスクファクターです)
このほかにも、遺伝的(先天的)な因子が関係している場合もあり、ある種の症候群では重度の歯周病が生じ、若い年齢から信仰の速い歯周病が発現したりします。しかし、歯周病は生活習慣病の一つであり、プラークを作りやすい生活環境と強い関係があります。
このため、歯周病治療、予防においては細菌の塊であるプラークを取り除く、「プラークコントロール」のほかに、からだを健康に保つことや、禁煙、持病(糖尿病など)の管理といったことが大事になってくるわけです。
さらに近年では、腸と同じように、口の中の細菌の攻撃力を抑え、善玉菌を増やして口の中の抵抗力を高め、歯周病を抑えようという「プロバイオディスク」の考え方もでてきています。
続 日本人はこうして歯を失っていく
著 日本歯周病学会・日本臨床歯周病学会
★増殖する歯周病菌 感染は防げるのか? ③
2023年2月1日
歯周病の原因と考えられる菌は、これまでたくさんの種類が見つかっています。このうち、歯周炎の患者さんに多く見られ、特に悪質な菌といわれる3種類が「P.ℊ菌(Porphyromonas-gingivalis.ポルフィロナモス・ジンジバリス)」「T.f菌(Tannerella forsythia.たん慣れら・フォーサイシア)」「T.d菌(Treponema denticola.トレポネーマ・ディンティコラ)」です。
研究のモデルでこれらは「レッドコンプレックス(コンプレックスは集合体」の意)」と呼ばれています。歯周病菌の細菌叢の病原性ごとに6つのグループに分けたときに、ピラミッドの頂点に位置し、そこが赤色で示されているためです、読者の皆さんには、レッドカードを受けた質の悪い菌という意味で、「悪玉三兄弟」と覚えて頂くといいでしょう。」
悪玉三兄弟の中でもP.ℊ(ピージー)菌は特に有名です。歯周病の研究の中でも早くから注目され、高い病原性を持つなど、その生態が詳しく知られています。高血圧や動脈硬化、アルツハイマー病などの全身病にもかかわっている原因菌として知られているのもこのP .g菌です。
一方で、P.g菌をはじめ歯周病菌が口の中に棲んでいるだけでは歯周病にはなりません。歯周病菌は、ほとんどの人の口に生息しています。そして、どんなに清掃をしても、ゼロにはできません。しかし、誰もが歯周病を発症するわけではありません。
口の中は700種類以上もの細菌が棲んでおり、帳に次いで最近の多い場所です。細菌には、体に良い働きをするものもあり、こうした善玉菌が優勢な環境だと歯周病菌の活動は抑え込まれれるのです。
日本人はこうして歯を失っていく
日本歯周病学会・日本臨床歯周病学会 より