★ う蝕とう窩は何が違うの?
2023年06月3日
現在のう蝕の病に基づいた治療の話をする前に、う蝕とう窩の違いについて考えてみましょう。
歯面とバイオフィルムの境界では、飲食に伴って1日に何度もpHが大きく変化します。臨界pHを下回れば歯質からミネラルが失われ(脱灰)、pHが回復すれば溶け出たミネラルが歯面に戻ります。(再石灰化)
脱灰と再石灰化を繰り返す中で、そのバランスが崩れて脱灰の時間が多くなるとう蝕が進行していきます。つまり、う蝕とは脱灰と再石灰化の間を絶えず行き来する動的なプロセスといえるでしょう。
一方、う窩は、う蝕というプロセスが進行し、歯質の構造が壊れた結果生じる実質的な欠損状態と言います。
う窩にいくら修復治療を行っても、う蝕を治療したことにはなりません。原因に対処しなければ、またう蝕になってしまうでしょう。う蝕に対しては、そのプロセスをコントロールする「削らない治療」をまず行うことが必要で、それこそが現在のう蝕治療の基盤です。
著 伊藤直人
現在のう蝕治療は、う蝕のプロセスをコントロールする「削らない治療」を基盤としています。実際の臨床での進め方をみていきましょう。う蝕治療も、歯周治療と同様の流れで進めていきます。まず初期審査(口腔内検査、問診)を行い、現病歴や治療の履歴と併せてう蝕の原因やリスクを診断します。う蝕の部位や罹患時期により原因は異なります。
それを基に、初期治療として削らない治療を行います。削らない治療では、患者さんにう蝕の原因を伝え、う蝕のコントロールに必要な知識を提供し、行動変容を促します。初期治療を経ることではじめて、う窩を削る・削らないの適切な診断が行えるようになります。
再診査、再評価御に、必要に応じて修正療法(削る治療)を行います。う蝕においても、治療後は再発を予防するためのメインテナンスとう蝕サポート治療(SCT:supportive caries therapy)が重要です。カリエスコントロールは、歯がある限り生涯にわたって行う必要があります。
著 伊藤直人